片岡吉乃 全作品感想 − 『しじみちゃんファイト一発』



しじみちゃんファイト一発

<ストーリー>
沼田しじみは16才の女の子。色気のいの字もないおとぼけ人生を送っていたのだが、ある日突如として女に目覚める。 だが本人は小悪魔のつもりの珍行動に、友人には「オマエはキツネに化かされてるんだ」と言われる始末。
あさってな方向に突進するしじみは、「綺麗な女しか相手にしない」 といわれるモテ男の浅野をターゲットにするのだが・・。

<感想>
キャラクター、ストーリー、アホテンション、と全てにおいて片岡節が炸裂の逸品。 やはり主人公にアホ(褒め言葉)をもってくると破壊力が違います。それでいて大筋を恋愛要素に 結び付けられるバランス感覚がなんとも素晴らしい。

キャラクターはある意味完成形な気がします。本筋が恋愛物にも関わらず、しじみの空回りっぷりの破壊力 がとにかくスゴイ。目指す“小悪魔”とは真逆の方向に全力疾走する様は爆笑モノ。でも一つ一つの要素をとってみれば、 学生時代にはありがちな行動だったりもする(髪型で失敗したりとか)。
更にしじみの友達の尚紀がつっこみとして実に秀逸(いままでの主人公普通の人×友人ボケの逆)です。 激しいつっこみをするでもなく、振り回されるでもなく、やんわりと流されつつ切り返す、ソフトつっこみのエース。 また箍の外れた暴走特急しじみをフォローする常識人と見せかけて、メイクをしたしじみに(そうとは知らずに)惚れて しまうお約束っ振りも素敵。個人的には、片岡キャラの中で一番いいコンビだと思う。

結局、『お椀の中が住み良いでやんス』 と自分らしく生きていく事を選んだしじみ。自然体が 一番、という教訓の残るステキなお話でありました。

しじみちゃんファイト一発
レベル2:千笑バージョン

<ストーリー>
及川千笑は16才の女の子(でしじみの友達)。深く考えない性格から、すぐに男に騙されてしまう。
そんな千笑を心配したしじみは、騙されない為の格言?を千笑に授けて、尚紀と共に影から見守る。だがそんな心配をよそに、 千笑はまたうさん臭い男と付き合い始めてしまう。

<感想>
千笑の恋愛を軸にしつつ、自分に恋愛要素がないせいかフルスロットルで暴走するしじみが面白過ぎる。 「なんたるチョイス!」 とその次のページなんて通常ありえない文章量(画面の半分以上が吹き出し)なんだけど、 それを一気に読ませるテンポがすごい。
鼻の穴に指をつっこみ、オクトパスに絡まれ、木からぶら下がった挙句に下りられなくなり、もう少女漫画の枠を超越したこのセンス はどうだ。なにより凄いのは、これだけ枠を壊しておきながら、恋愛物として完璧に成立している所だと思う。

千笑のキャラクターもなんかもうほんとに可愛いというか、いじらしいというか。隙を突くまでもないノーガードな 千笑は騙されっぱなしなんだけど、『千回泣いても千回笑える』 そのぽわんとした逞しさ。 だからこそ、千笑を騙そうとした武ちゃんの最後の言葉、

『千笑 ごめん』
『ごめん』

が一層響きます。
笑い要素が皆無でも物語として成立するだろう内容に、しじみオクトパスを絡ませるその構成力。まさに片岡吉乃の真骨頂。絶対に必見です。

  あそびじゃないんだ

<ストーリー>
A組・間宮美鈴、B組・皆上えり、C組・室塚瑞紀、D組・免田悦、E組・門前小桜、の五人は追試で呼び集められる。
教師は会議でいなくなり、濃すぎるバカばかりが集まった教室はいつしか動物園状態に。追試は一向に進まず、脱線して止まるどころか アクセル踏んで爆走し始める五人。
彼らは見事追試をパス出来るのか!?

<感想>
パロディとして描いたかどうかは分かりませんが、ジョン・ヒューズの 『ブレックファスト・クラブ』 が大元 だと思います(詳しくはリンク先参照)。
今まで一人だった“色物ポジション(いい意味で)”が二人もいるのだから、もう暴走して当たり前。片岡ナルシストキャラの最右翼“免田悦” と壊れたマイペース美人“皆上えり”。二人のダブルボケにマザコン小桜と、なんだかんだいいつつ乗ってくる室塚。ある意味ボケカルテット・ 対・まともな主人公という構図で、そりゃ追試は進まない。
一話当たりのボケ総量は飽和に近いのではないか、というノンストップボケ特急。
えりと室塚で免田を梱包するシーンは、片岡作品でも随一の名ネタだと思う(笑

『梱包かよ困るよ』
『キュウリ入れとくから 足りなくなったら言って』
『よせよ僕は昆虫じゃないんだ』

もう梱包なんてどっから出てくんだ、という(笑
免田がおちょくられる様を見るためだけにでも読む価値あり。というかこれを読まずして片岡ファンというなかれ。

    夜の列車

<ストーリー>
高校生のユミは今日が念願の初デート。出かける前は嬉しかったのに、何だか違うと感じて、結局すぐに断ってしまう。
その後もお金を落としたり、傘を盗まれたり、挙句変な男に体を触られそうになり、と散々な目に。
ついてなさに落ち込むユミは、“夜の列車” を幸せの象徴のように眺めるのだが・・。

<感想>
人が幸せそうに見えたり、自分だけが不幸のように思い込んでしまう、誰にもある心境をさらりと描いた良作。
中は明るくて暖かそうな夜の列車を幸せの象徴のように見るユミ。兄に言われた、

『アホかおまえ 乗ってる人から見たら 真っ暗な景色だけじゃんよ』

という言葉、そして自分が振った彼の言葉から自分の無神経さに気付く。

“「しょーがないのさ」  たとえ納得いかなくてもね”

“プラス マイナス0 なら いい”

別の角度から見て初めて見える景色。自分の見方が変われば世界も変わる。
見る場所を変えれば、自分が 『恵まれた場所にいる しあわせな私』 だと気付く。

1年後、3年後と時間が経ってから読むと更に味わい深い作品だと思います。

      総評

『しじみちゃん』 と 『千笑』 が読めるだけで一冊分の価値があると思いますが、それに 『あそびじゃないんだ』 まで ついてくるんだから、まさしくチーププライス((c)片岡吉乃)。お買い得です。
何度でも言うけど、“尚紀”のようなソフトつっこみは希少価値というか、しじみちゃんとは割れ鍋に綴じ蓋(褒めてる)、本当に名コンビ だと思う。大好きです。
そしてそこに違和感なくはまる千笑もステキ。『千笑バージョン』 は本当に奇跡のような成立地点にある作品なわけです。 笑わせながら同じテンションで泣かせるという。これどっちの作品が欠けても駄目というか、3人の組み合わせの妙を感じます。 だから出来るならナオキッキバージョンも読みたかった。

これまでのコミックスだと、シリアス寄りの話数本とお笑い系がちょっぴりだったのが、ここに来て完全にお笑い系メインになっているので、 そっちが好きな方には堪らない一冊です。
毎回思うけど 『あそびじゃないんだ』 の免田とか、単発で終わらせるにはもったいなさ過ぎるキャラだと思う。ダンボールに包まれるわ、 クレープで巻かれるわ(笑
あのボケ四重奏が奏でる笑いの洪水は、もうすごいの一言。そこら辺が一般的な少女漫画読者には理解され辛い部分なのかもしれませんが、 笑いの分かる人間なら年齢男女問わず分かるのではと思う。

買って絶対に損はなし。個人的にはナルシスト免田が激プッシュです。
頑張れ免田!